隠し事なんて、するタイプには見えない。
本人に自覚がないなんて事態なら別だろうが、気持ちが離れればそれをちゃんと口にするのではないかと、聡は思う。
思う故……
そこでそっと、蔦を見下ろす。
そうだ。蔦もそう思っている。だからこそ、様子がおかしくともはっきりと原因を口にしない涼木の態度が、不安なのだ。
「俺、涼木にそれとなく聞いてやろうか?」
思い切って口にするが、蔦は首を横に振る。
「いや、こういうのは、他人に頼ると誤解のモトだ。聞きたきゃ自分で聞くよ」
自嘲気味に笑う。ため息も混じる。
「だったら、お前にこんな話すんなっつーのな」
「いや …… 別に」
聡は笑えない。
「だらしねぇよな」
ふと空を仰いで息を吸った。
「俺、甘えてたのかな?」
「何に?」
「ツバサに。ツバサはずっと俺のコトを好きでいてくれるって、自惚れ過ぎてたのかもしれないな」
それって、自惚れなのか?
残暑厳しい夏の空。でもグルリと見渡し、目を止める。
広く高い空の端。隠れるように、秋の空。
いわし雲ってヤツだろうか?
「俺よかイイ男、いっぱいいるもんな」
「そういう自虐的な事言ってると、また涼木にゲンコツで殴られるぞ」
蔦は笑った。
その乾いた声がなんとなく寂しく、聡も思わず空を見上げた。
女心と秋の空
今の蔦には、あの空はひどく惨い存在だろう。
蔦康煕と涼木聖翼人。この二人がどれほど仲の良い男女であるか、それは聡も良く知っている。
そんな二人でも、こんなコトを考える時があるモンなのか?
俺と美鶴は?
己の立場に置き換えてみる。
……………
聡の場合は、それ以前の問題だ。
いや、それよりも―――
陽炎の向こうで、揺らぐ二人。
もしひょっとして………
ひょっとして美鶴が、あの霞流ってヤツに惚れてるとしたら?
瞬間っ! 思わず強く、瞳を閉じる。
もしそうならば、むしろ美鶴の心こそ秋の空であって欲しい。
卑しいと思いながらも、聡はそう願ってしまうのであった。
秋空―――
駅舎の扉に手をかけ、嫋やかに見上げる。
その仕草は実に上品で、美しい。石榴石のメンバーが目撃すれば、一目で即倒してしまうだろう。
長身の立ち姿に、小さな頭部がバランス良い。
真っ黒な髪が午後の陽射しを受け、控えめに輝く。円らな瞳はどこまでも優しく、だがはっきりとした眉には力強さを感じる。
美しくとも女性ではない。
だが本人は、その容姿があまり好きではない。
あまりに、父親の血を濃く受けすぎている。
瑠駆真は、扉に手をかけたまま視線を下げ、肩越しに振り返った。
誰も居ない、無人の駅舎。
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